ジョージ・フロイト事件からみるアメリカの差別問題

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2020年5月25日夕方、アメリカ,ミネソタ州のミネアポリスにて、警官に取り押さえられた黒人男性ジョージ・フロイト氏が死亡した。

彼が取り押さえられながらも「息ができない」と警官に訴える動画は、瞬く間に全世界で拡散され、大きな話題を呼んでいる。

事の発端は「偽の20ドル札を使おうとしている人がいる」という通報だった。

現場に到着した警官は「酒や薬物などの影響を受けているとみられ、青い車の上に座っている」という情報に該当する酒に酔った様子の男性を発見。

警官は車から離れるように命令したものの、男性が抵抗したことで手錠をかけられ地面に押さえつけられた後、異常が見られたために病院に運ばれたが死亡が確認された。

 

撮影された映像は10分にもおよび、「殺さないで」と訴える男性の声や、目撃者が男性が動かなくなったことを指摘し膝を離すように求める声、警官に対し「鼻血が出ている」、「首から離して」と訴える声も録音されている。

黒人差別にまつわる事件

いわゆる「黒人差別」にまつわる事件がアメリカでは後を絶たない。

その一つがジョージ・フロイト事件の同日、ニューヨーク市のセントラルパークで起こった「エイミー・クーパー事件」である。

この事件は5月25日、セントラルパークでバードウォッチングをしていたクリスチャン・クーパー氏が、飼い犬にリードを装着していないエイミー・クーパー氏に対し、散歩をさせていた犬にリードを付けるように頼んだことから始まった。

クリスチャン・クーパー氏はエイミー・クーパー氏が指摘に応じなかったため動画を撮り始めたところ、エイミー・クーパー氏は「いま、目の前のアフリカ系アメリカ人の男性が”私の命を脅かしている”と通報しますよ」とクリスチャン・クーパー氏を脅し、実際に通報するに至った。

なお、公園内では飼い犬にリードを装着することが義務付けられており、クリスチャン・クーパー氏はエイミー・クーパー氏のルール違反を指摘していただけである。

警官の出動を要請する際、彼女はしきりに男性がアフリカ系アメリカ人であることを主張していたという。

 

この事件を受け、彼女の勤務先であった投資会社の「フランクリン・テンプルトン」は事件の翌日に人種差別を理由にエイミー・クーパー氏を即時解雇したことを発表した。

同社は「フランクリン・テンプルトンではいかなる人種差別も容認しない」としている。

 

この事件でエイミー・クーパー氏が使った「アフリカ系アメリカ人の男性が私の命を脅かしている」という言葉が、アメリカにおける「白人」「黒人」「警察」の三者関係を色濃く表しているとして、動画は全米に広まった。

クリスチャン・クーパー氏同様アフリカ系アメリカ人である、コメディアンのトレバー・ノア氏は、自身番組の持つInstagram内でこの事件について次のように語っている。

 

「彼女は明らかに白人であること、つまり、 “Whiteness” の力を濫用できることを知っていた。目の前にいる、アフリカ系アメリカ人を“Blackness”(黒人であるために)脅威に晒すことができるということも。あの言葉は、黒人男性が、警察にどのように捉えられているかということを明確に表していました。

彼女は、あることを認識していたんです。それは、 『私は、あなたが警察を怖がっていることをわかっています。 “Blackness” を持つ黒人であるから。私は白人女性であるということを武器にできるし、有罪無罪を決める頃には、あなたが負けるということはわかっている』ということですね。」

(Forbes JAPAN「抗議デモは「ドミノのように起こった」 米コメディアンの解説動画が話題」より引用)

 

この事件での一番の問題は、トレバー・ノア氏の語る内容に表れているように、彼女が“Whiteness”の権力を乱用できること、自身の警察への発言で“Blackness”を脅威に陥れられることを潜在的に認識し本能的に発言している点である。

これまでに(特に白人において)黒人に対しての人種差別について理解していない人が多いと言われてきたが、ここまで直接的に差別的な発言が使われた事件は珍しく、その姿に多くの人が衝撃を受けた。

アメリカ全土で行われた暴動

25日にミネソタ州のミネアポリスで起きたジョージ・フロイト事件を受け、26日にはミネアポリスで抗議活動が始まった。

26日に警察をの衝突を見せたものの、27日には抗議活動は激化し、抗議活動参加者は警察に向かってビンや石を投げ、警察はゴム弾や特殊閃光弾、催涙ガスで対抗する等暴力行為が行われた。

27日には射殺される人も出ている。

 

抗議活動の流れは瞬く間にアメリカ全土へと広がることとなる。

28日にはニューヨーク市においてデモ参加者が暴徒化し、少なくとも70人が逮捕されたと報じられた。

さらにコロラド州ではデモの最中にコロラド州会議事堂の外で銃声が聞こえたとの声も上がっている。

 

アメリカ全土に広がった暴動に対して批判的な声をあげる人も多い。

しかし、トレバー・ノア氏は暴動が広まる背景には社会の「契約」の問題があると指摘する。

 

彼の発言によると、社会は本質的にあらゆる「契約」で成り立っている。

社会は法律や目に見えない暗黙のルールに至るまで、あらゆる集団において「このグループではこのルールを守ろう」という「契約」で成り立っている。

しかし、差別や不当な扱いを受けている黒人は、その契約を守る対価としての特権を与えられてきていないのではないだろうか。

契約とは一般的に料金の支払いを課す代わりに商品やサービスの提供を受けたり、労働を課す代わりに賃金を受け取ったりできる仕組みであるが、課されたことを遂行しても対価を享受できなかったら社会はどうなるだろうか。

 

今回の暴動においても、暴動そのものや暴徒化した人が悪いという意見もあるが、本質的には「契約不履行」を犯している社会にも大きな問題があるのは間違いない。

アメリカにおける黒人差別

これまでアメリカにおいて、警察や司法組織が白人と黒人に対しフェアであったことは一度もないといっても過言ではない。

その事実は実際に数値にも表れている。

 

2014年に実施された調査では、ミズーリ州ファーガソン市における人口のうち63%が黒人であるにもかかわらず、警察官の94%は白人で構成されており、警察捜査の92%と車止めの86%は黒人が対象であった。

2018年の調査では、警察に止められたうちの88%が黒人やラテン系の人であるにもかかわらず、白人は10%のみという結果が出ている。止められた88%の黒人ないしラテン系の人うち、70%は違法性のあるもの等は見つからなかった。

 

ミズーリ州に限らず、アメリカでのドラック使用率は白人と黒人で同程度と言われているが、検挙される人数は黒人の横臥6倍も多く、白人と同じ罪で検挙されても黒人の方が判決が重くなることが多い。

仕事においても、白人よりも黒人の方が平均的な給料は低いと言われている。

影響は全世界にまで

今回アメリカで起きた事件は全世界に影響を及ぼしている。

この問題に対し言及したり、行動を示したりしている著名人や有名企業も多い。

シューズメーカーの『Nike』は今回のことを受け、公式Twitterにて動画を公開した。

さらに『adidas』はこのツイートを「どんなに前へ進んでもともに。どんなに変わってもともに。」というコメント付きで拡散した。

Twitterは公式アカウントのアイコンを黒く変更している。

これまで何度も抗議活動や著名人の呼びかけが行われてきたにもかかわらず、このような事件が繰り返されるには、事件を一過性のものと捉え、後に続く他の事件やスキャンダルによって事件そのものが風化してしまうことが背景にある。

いま個人にできることは、この問題について考ることや、何かしらのアクションを取ることではなかろうか。

「Black Lives Matter」が伝えるメッセージ

今回の事件をきっかけに「Black Lives Matter」という言葉を耳にするようになった。

日本語に訳すと「黒人の命は大事」という意味を指す。

この言葉はなにも、「黒人の命だけが特別大事である」ことを叫ぶものではない。

 

「Black Lives Matter」という言葉がうまれたことをきっかけに、「All Lives Matter(すべての命は大事)」という言葉も生まれた。

しかし、アメリカにおいて黒人が白人と平等な扱いを受けていたらこのような言葉は生まれていただろうか。

答えは否だ。

この言葉の裏には、「本来であれば平等に大切にされなければならないはずの命が不平等に扱われている」という意味が含まれている。

また、アメリカにおいて「黒人が不当な扱いを受けていることについて本質的に理解していない人がいる」ということもまた、この言葉が訴えているメッセージのひとつだ。

 

暴徒化する抗議活動に異論を唱える声も多いが、社会的な問題として根本的に解決しなければならないことを浮き彫りにした今回の事件。

この事件が我々に「差別とは」「平等とは」について問いかけてきている。

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