日本にベーシックインカム制度は導入されるのか

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9月に菅内閣が発足して以来、急速にベーシックインカムの導入論が巻き起こっている。

ベーシックインカムとは

ベーシック・インカムとは、政府から毎月一定の金額が支給される制度で、「政府がすべての人に必要最低限の生活を保障する収入を無条件に支給する制度」と定義されている。

ネガティブ・インカム・タックスと呼ばれる、一定の所得に達していない人に対して税を還元する仕組みである生活保護や負の所得税のような社会保障とは違い、支給に条件が設けられておらず、生まれたばかりの子どもであっても、収入の高低にかかわらずだれでも申請ができる。

 

一定の金額を無条件で一律に支給することで、社会保障制度がシンプルになり行政上のコスト削減につながるというメリットや、「無条件」での支給であるため、支給を受けるひとが「政府から施しを受けている」という劣等感を感じさせないメリットがある。

これは共産主義的な施策とも異なり、所得の再分配制度のひとつであるものの、あくまでも支給されるのは最低限の生活費のみ。支給額が足りないと感じられれば働いて稼ぐこともできるという市場の原理も併せ持っている。

果たして日本にはベーシックインカムが導入されるのか

今回のベーシックインカム導入についての議論の発端は、菅義偉首相のブレーンであり経済学者でもあるパソナグループ会長の竹中平蔵氏だ。

竹中氏が雑誌のインタビューやテレビ番組の出演を通して、コロナ禍において「究極のセーフティーネットが必要だ」とし、国民全員に毎月7万円の支給を提案したことから議論に火をつけた。

しかしながら日本国民約1億2,000万人全員に毎月7万円支給するとなると、年間で100兆円を超える財源が必要になり、その財源をどこから持ってくるかという問題が生じる。

竹中氏はその財源として「社会保障財源」を提案しているという。

 

また竹中氏は今年8月に出版した著書『ポストコロナの「日本改造計画」』の中でこのように記している。

一人に毎月七万円給付する案は、年金や生活保護などの社会保障の廃止とバーターの話でもあります。国民全員に七万円を給付するなら、高齢者への年金や、生活保護者への費用をなくすことができます。それによって浮いた予算をこちらに回すのです。

 

現在、年金や医療、介護、失業保険、生活保護といった社会保障支給額は、年間で約120兆円だとされている(2019年)。

それを賄っているのが国民が支払う年金や健康保険といった保険料の約71.5兆円、国庫負担の約34.1兆円、地方税の約14.7兆円、年金積立の運用利益などだ。

竹中氏いわく、こういった財源をベーシックインカムに回せば支給が可能になるという。なおその場合は年金や生活保護といった社会保険制度は廃止される。

新しい税金の導入も

日本の社会保険は加入者の掛け金で運用されている社会保険制度であり、国民が互いに支え合う「共済」のシステムで成り立っている。

年金をはじめとした健康保険、介護保険、雇用保険といった保険は、国民が負担する「社会保険料」を主な財源としており、これらが年金の支給や医療費、介護費用の支払いに充てられている。

 

しかしながら、国民1億2,000万人につき7万円を支給した場合の、年間約104兆円というベーシックインカムの財源を確保するには、年金の保険料だけでは不足する。

健康保険や介護保険、雇用保険なども含めた現行の保険制度における「社会保険料」によって確保される財源と同程度の財源が必要になるという。

よってベーシックインカムが導入された場合は、サラリーマンが毎月の給料から天引きされている「社会保険料」が、そのまま「ベーシックインカム税」へとその性質を変えることとなる。

この方法では決定的な問題も

一方でこの方法で国民全員につき7万円のベーシックインカムを支給すると、医療費や介護費用の財源は残らなくなることを、『ベーシックインカムを問いなおす──その現実と可能性』の共著者の一人であり、労働社会学者の今野晴貴氏が指摘している。

 

「竹中氏の方法が日本で採用されば、年金、医療、介護、生活保護といった社会保険給付は打ち切られることが想定されている。

年金を老人ホームの毎月の入居費用の支払いに充てている高齢者の中には、ベーシックインカム制度が開始されると入居費用が払えないために退去を余儀なくされるケースもうまれるだろう。

健康保険や介護保険制度の「共済」の仕組みも成り立たなくなるため、現役世代も高齢者も病気や介護は必要になったときは全額自己負担を強いられる。

竹中氏の方法でベーシックインカム制度を導入した場合には、このような費用も毎月支給される7万円から支出する制度ともいえる。

 

現在の保険制度には、入院や手術などで1か月の医療費が所得により決まる一定額を超えると、超えた分の金額の支払いを免除される「高額療養費制度」なども含まれており、国民にとっても重要なセーフティーネットとなっている。

一方で保険制度が成り立たなくなった場合は、このような制度もなくなることとなり、病気で入院した場合や、介護が必要で老人ホームに入居した場合には、月に数十万単位の出費を全額自身で負担しなければならない。

このような金額を毎月支給される7万円で賄えるかというと、非常に厳しいのが現実だろう。

 

今野氏は、このような事態に備えるために竹中氏は、「アメリカのように民間の医療保険や介護保険に加入せざるを得ないシステムを考えているのではないか」と話している。

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